運送会社が考える持続可能な社会の実現

運送会社が考える持続可能な社会の実現

こんにちは。配車ステーションのプロジェクトディレクターです。
今回は、運送業界における現在の課題である「ドライバー不足」と「仕事不足」に焦点を当て、その背後に潜むジレンマと、持続可能な社会を実現するためのアプローチについて考察してみたいと思います。業界内外での噂話や裏話を交えながら問題の核心に迫っていきます。また、過去から現在までのドライバーの労働環境についても注目しながら、時代の移り変わりと今後対処していかなければならない問題について、考えていきたいと思います。良ければお付き合いください。

現象の背後にあるジレンマ

最近、ニュースなどで話題になっている“ドライバー不足”。これに関して業界では、「凄く良い給与条件でドライバー求人を出している会社が簡単にドライバーを集めている」という噂話を聞きます。しかし、一方で、同じ業界内で「仕事が少なく、求人通りの給料を支払えなかったため、ドライバーが辞めてしまった」といった話も絶えません。実際はどうなのでしょう?不足しているのは運送の仕事なのでしょうか?それともドライバーさんなのでしょうか?

一見すると、ドライバーが不足している一方で、仕事が少ないという状況は矛盾しているように見えます。この求人の話を聞いているだけでも、運ぶ仕事がないのか、ドライバーがいないのか、こんがらがる方が多いと思います。はっきりと言えることは、ドライバーも不足しているし、仕事も極端に少ないということです。それだけコロナショックに始まった現在の不景気の影響は大きいのです。

業界外の人々からすれば、「上手くバランスを取ればいいのではないか?」という疑念が生まれるかもしれません。しかし、この問題は複雑で、一言で解決できるものではありません。背後には様々な要因が絡み合っており、その理解が必要です。まず、運送業界は需要と供給の不均衡に苦しんでいます。ドライバーがいなくて、稼働できない空車トラックが存在する一方で、やっと稼働できる体制になっても受注できる案件が少なく、ドライバーへの給料を支払うことができないという状況が生まれているのです。さらに昨今の燃料価格の高騰はこういった慢性的な運送業者の状況に追い打ちをかけています。このような状況は、需要がうまく分散していないのに、供給ばかりが集中している結果とも言えるでしょう。

一年の大半は閑散期

これは昨今に限らず、ずっと何年も続いてきた状況ですが、実は貨物トラック業の繁忙期は日数にすると年間で60日にも満たない日数しかありません。つまり2月分もないのです。あとはずっと閑散期で、中小運送会社は空車リスクと毎日戦わなければならないのです。よく業界の人間が言うのは、一定期間に集中する需要が分散すればよいのに、ということなのですが、私の知る限り25年間これが成されたことはありません。周りに先んじて案件を貪るには、他社よりも安いサービスを荷主に提供することが一番簡単な方法です。つまり、収益が少ない運送会社が多いという構図を作ってきたのは他ならない業界の運送会社たちなのです。

さらに、業界内では手間のかからない仕事には多くの業者が殺到します。このため、さらに価格が下落していき、運送会社の収益が圧迫されています。その一方で、難易度の高い仕事やきついと呼ばれる仕事には供給が追いつかず、顧客が欲しているサービス品質に追いつかないというリスクが生じています。市場には競争が必要ですが、このような現象から生まれるこのジレンマを解消するためには、業界内でリーダーシップを持つ企業や、そのサプライヤーとなる中小企業の新たなアプローチが求められているのかもしれません。

過去の責任と未来への挑戦

運送業界が現在の状況に至る背景には、長い歴史があります。かつては業者も労働人口も多く、物流が大量に発生していました。このような時代であれば、目先の利益を優先し、過剰な運送サービスを提供しながらも安価で輸送することを売りに受注を増やす薄利多売をしていても経営を維持することができたのかもしれません。しかし、人口は減少の一途をたどり、日本のありとあらゆる産業の市場が収縮していくと、安売りの戦略では企業を維持していくことが困難になりました。このような背景の中でも、運送業においては顧客至上主義が業界を支配し続け、結果的に価格競争を続けてきたのです。他社よりも多く受注を得るためには、身を削ってでも安くする。たとえそれが自分たちの本意でなかったとしても、黙ってこの流れに身を委ねてきたことが、自分たちの首を絞める状況を作り出してきたのです。

私たちが過去に行ってきた選択が生み出した現在の困難な状況があります。これを打開し、これからの未来に向けて新たな道を切り開く必要が求められる時期がきているのかもしれません。この問題は誰かに責任転嫁できるものではありません。そして自社だけの努力では解決できない大きな問題は、業界全体で協力するほうがよいと考えられます。トラックが走り、ドライバーが十分な生活を維持できる。そして社会の物流を支えて人々の豊な生活を支えていく。未来を生きていく若者たちのためにもそんな持続可能な社会を築く努力を行っていかなければなりません。では具体的な方策は見えているのでしょうか?

持続可能な社会へのアプローチ

持続可能な社会を実現するために、運送業界が取るべきアプローチはいくつか考えられます。

①効率化と多様化

業界内での効率化を図りつつ、新たな市場や需要を開拓することが重要です。例えば、短距離配送や都市部でのマイクロモビリティサービスの提供など、多様な運送ニーズに対応する努力もいいでしょう。需要と供給のバランスをそれぞれが所属している市場セグメントで調整するという方法もあります。もっとも手軽なのは需要の分散を図る方法です。荷主への提案により、出荷日や納期の調整を行うことで需要分散ができるかもしれません。そのためには荷主に提案をうけいれてもらえるだけの信頼関係の構築が必要となります。また、日々の業務の効率化も良いでしょう。ペーパレスによる記録作業の簡略化など、時短に繫がる効率化は人材不足の解決にもつながります。

②教育と訓練

ドライバーのスキル向上と専門的な訓練を提供し、適度なサービスを提供できるドライバーを育成することも良いでしょう。ドライバー職のイメージアップや意識改革を促すような施策はこれからも必要です。運行に使用する道路の状況は日々良くなっています。地方と地方のアクセスもひと昔前と比べても格段に良くなっています。2024年問題などもありますが、働きやすさを打ち出し、これを機にドライバーという職種に対する世間イメージの向上を図ることが必要だと思われます。固定概念を取り払うことでドライバーの働き方を変えることもできるかもしれません。

③技術の活用

ルート最適化のためのテクノロジーや自動運転技術を活用し、効率性を高めます。これにより、運送業界は未来に向けて持続可能な選択肢を提供できるようになります。ドローンによるラストワンマイルなども最近のニュースで取り上げられています。さまざまな先進企業が技術革新に乗り出している中、このような先端技術を導入する努力が求められています。しかし、技術革新はどんな企業でも取り組めるものではありません。トップの企業から末端の小規模事業者までが連携して行っていけるような業界を挙げてのイノベーションが必要になるでしょう。

④協力と共感

業界内外のステークホルダーと協力し、持続可能なビジョンを共有しましょう。SDGs(持続可能な開発目標)に向けた共同の取り組みが、運送業界の未来を変える鍵となります。トラック事業ということなので、カーボンニュートラルという分かりやすい目標を掲げるのも良いですが、誰一人残すことのない業界全体で取り組める持続可能な目標を掲げることができればなお良いと考えます。それは業界で働くドライバーの処遇改善もしかりです。今後の国の施策にも期待したいところですね。

まとめ

「昔のドライバーの給料は札束が立っていた」。25年前この業界に入ってきたとき、諸先輩たちからよく聞いた話です。「よく来てくれたね。また来てね。」と積地で弁当が出たというような話も聞きました。よくある「昔はよかった話」ですが、私にはそれがただ好待遇であったことを自慢している話にだとは思えませんでした。なぜなら、彼らが走っていたのは現代のような素晴らしい高速道路や主要幹線道路が整備されていない時代だったからです。高度成長期の日本を支えて走ってくれていたドライバーさんたちの努力の話を私はそんな軽い自慢話だとはとても思えません。2024年問題なんて笑ってしまうぐらいのブラック労働をものともせず、家族のために身を粉にして働いていたに違いありません。それが良かったのか悪かったのか、今の私たちに判定することなんてできませんが、少なくともそうやって走ってきたドライバーさんたちのおかげで今の豊かな日本があります。私たちもそれに続く私たちにしかつくれない豊かな日本を築いていかなければならないと私は思っています。

運送業界の「ドライバー不足」と「仕事不足」のジレンマは、単純な問題ではなく、需要と供給、価格競争、技術革新など多くの要因が交錯し、解決が難しい状況にあります。しかし、過去に起きたことを分析し未来に活かそうとしていくことが、持続可能な社会を築くことにつながります。効率化、多様化、教育、技術活用、協力と共感。様々なアプローチがありますが、自分にできる範囲でいいのでまずは行動を起こすことが大事です。未来に向けて前進するということは、一歩を踏み出すこと。運送業界が変わることで、持続可能な社会の実現に一歩近づくことができるのであれば、今がその一歩を踏み出すときなのかもしれません。